12月に入り終わりが近くなると

 二十歳の頃、新宿百人町のアパートに住んでいた。その当時にはすでに見る影も無くなってはいたが、その町は由緒正しい街で江戸時代には伊賀組百人鉄砲隊の屋敷があり、戦前は静かな住宅地で武蔵野の入口であったのと同時に、江戸時代からの静かな隠栖の地、又遊山の地でもあったとのこと。戦後は「音楽の町」「楽器の町」として知られていたが、やがてラブホテルが立ち並ぶ。

1984年のクリスマスイブ、アパートの狭い木の階段を下り靴を履き、ラブホテルの裏路地に降りる。周辺の韓国や中国、タイ、ミャンマーのアジアの料理店・雑貨店といったエスニックな通りを抜けると歌舞伎町に繋がっている。イチョウの黄色い葉も落ち切った小さな公園を抜け喫茶店Tomorrowの下を通り右に曲がると新宿コマ劇場の噴水。傷だらけの天使でアキラがゴールデン街の飲み屋の客達にこの噴水で泳がされて風邪を拗らせて死んじゃってアニキがドラム缶の風呂にエロ本のグラビアアイドルと一緒に入れてあげて、翌朝にリアカーにドラム缶を載せて夢の島に捨てに行く。埃と紙屑が舞う中からっぽのリアカーを引きずり逃げるショウケン、そこで流れる ♪ 「ひとり」。

夢のような過去は過ぎて行く、一人だけでただ歩く、もう誰もいない。

親友と待ち合わせコマの噴水の向かいの東宝会館4F。エレベーターが開くといきなり大音響のダンスフロアー。黒服のおっさんに金色のキーホルダーを見せると、千円で飲み放題/食べ放題。我らがXENON巨大なディスコ。ドナサマーのマッカーサーパーク、アースのLet’s Groove、Boys Town GangのCan’t Take My Eyes Off You、GazeboのI Like Chopin、ユーミンの街角のペシミスト、The PoliceのTea in the Sahara、大量の薄くて美味い水割り、大皿ピラフ、山盛キュウリ1本サラダ、沢山の出会いと切ない別れ、踊り疲れたあの日。

それから4年後、社会人になっても親友と六本木のディスコに通い続けた。そして運命の日、親友はディスコで2tの照明装置の下敷きになり死亡。山陰のフグ問屋の若旦那。明け方の麻布警察、長旅の果て、奴のオヤジの叫び声。それから何年も奴とは常に一緒にいる様な錯覚に常に襲われていて、あの事故は年明だったけれども12月に入り終わりが近づくと奴は今でも近くにいる。

<投稿者:平野裕一郎>